約 845,852 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/75.html
武装神姫のリン 第7話 「ティアVSジャンヌ」 私の名前はティア。愛するご主人様の所有物。 武装神姫ですわ。 で今日はアーンヴァルの基本パーツの1つ。 大口径ブースターの出力を強化した先行試作モデルをいただいたので、その調整と試運転を兼ねて近所の公園で飛行中です。 そのためにご主人様が見ていないうちに辺りのカラスや鳩をレーザーライフルで追い払ったのでいま空に私をさえぎるモノは存在しません。 なんて空を飛ぶのは気持ちよいのでしょうか?? お姉さまにも体感させてあげたいくらいです。 おや、あそこに見えるのは豪華なドレス。 しかしそれを身にまとうのは"ぽっちゃり"と言うのさえも、お世辞にならないくらいに丸々太った体躯。 全くもって美しくありませんわ。 私の瞳はあののような"物体"を映すために存在しているわけではありません。 早めに私の視界から消えていただくことを望みます。 よって威嚇射撃敢行、もちろん直接当てるわけではありませんので問題になることは無いでしょう。 そうして私はレーザーライフルをあの物体の足元に照準を合わせ、出力30%で発射。 いきなりアスファルトが光ったことでアレは逃げ出すはずでしたが、 いきなり黒い服を着たSPらしい人が集まってきました。 どうやら暗殺かなにかと勘違いしたらしいです。 私は面白くなかったのでご主人様の元へ帰ります。 そのときは気付きませんでした。アレがあんな人物だとは…… 俺はリンを定期健診に預けて今日はティアと2人で公園へ、というのもあのリンのレッグパーツのシリンダーを手がけた友人の会社の改良ブースターの先行試作販売型(ライセンスはもちろん取得済み)の試運転に連れてきている。 今日は4月5日。絶好のピクニック日和だ。 もちろん空を飛ぶにもとてもいい天気。 なのだが、ティアのヤツがちょっと目を離した隙に高く飛んで行ってしまった。 で探しているとなぜかレーザーライフルを抱えているのが気になったけども、無事に戻ってきた。 それまでは良かったのだけど…その数秒後俺たちは黒ずくめの男達に囲まれていた。 「あなたですのね!この私、鶴畑3兄妹の1人。和美に銃を向けた愚かな神姫のマスターは?」 後から現れたドレスを着たというより着られている感じのピz…もとい少女が声を発する。 「は???」 俺はわけがわからないので反応が出来ない 「ですから私にレーザーライフルを向けただけでなく、発射したのですよ。」 「……マジ?」 俺はティアに確認する。 「?? 私は見るに耐えない不快な物体に視界からはやく消えて欲しかったから威嚇を行っただけですのよ」 おい…ティア。それが原因なんだよと言う間もなく、俺は意識を失っていた。 俺が目を覚ますとそこは近所のセンターと思われる建物の個室、大会で使用される選手控え室だろう。 しかも俺は手首足首をベルトでイスに縛られている。全く身動きが出来ない。 辛うじて動く首を真横に動かす。左右にはあの黒ずくめの男が立っている。 しかもその手には拳銃が握られている……俺、もうだめなのカナ? カナ? 突然扉が開くとそこにあの少女がいた。その側近らしき男の手に握られるのは鳥かご。 その中にティアがいた、しかもうつぶせに倒れている。 まさか電気ショックでも食らって再起不能なんてことは…やばいのは俺も同じか… 俺の脳裏に最悪の結果が再生される。 「俺たちを処分しようってか・・・・・」 がそれに反した答えが帰ってきた。 「ここで今からバトルを行います。 感謝しなさいな、普通私に銃を向けた神姫ごとき解体処分が当然なのですが……私は慈悲深いのですよ。」 「??」 俺もティアも首をかしげる。 「そこでです、私にショーを見せてくださいますか?」 「ショー?」 「そうです、貴方の神姫に私の神姫『ジャンヌ』そしてその手足となる部隊の神姫たちと戦っていただきます。」 「なっ、1対多数だと!!」 「そうです、そこであなたの神姫がズタボロにやられる瞬間をその目に焼き付けていただきます。今回はそれで許して差し上げますわ」 「……そこのメス豚。こっちを向きなさいな」 突然ティアが起き上がってあの少女を又しても挑発を、いや明らかに侮蔑をこめてそう呼んでいる。 「な、なんですって今すぐスクラップにしてあげましょうか?」 「そのショーの主演、受けて差し上げますわ」 「あら、思ったより素直ですのね。よろしい。まあ貴女の声を聞くのはコレが最後になるでしょうけど」 「ただし、条件が1つ。 私が勝者になれれば私とご主人様を開放し、拘束した賠償金をいただきますわよ」 「……いいでしょう、いちおう聞いてあげます、いくら欲しいのかしら?」 「100万。」 「………わかりました、たとえどれほどの額を要求されてもそれが手に入ることは100%ありませんから。」 「で、相手は何体ですの?」 「そうですね、13体でしょうか?多少増減すると思いますが」 「わかりましたわ、ご主人様を離してくださいますこと? セッティングはご主人様にしか許してないのですけど」 「ではショーの開始は15分後ということで、せいぜい生き残るすべを考えてなさいな」 そうして彼女は部屋を後にする、そして側近によりティアの入れられた鳥かごとパーツ(いつも大会に持っていくバッグにはいっているのでこの場合はバッグと呼んだほうが良いのか?) が拘束を一時的にとかれた俺に渡される。 そうして俺はティアにありったけの装備をつけ、さながら重爆撃機のようなシルエットになったティアに全てを託した。 俺はフィールドが良く見える台の上にイスごと括りつけられフィールドを見下ろすことしか出来ない。 そしてティアと敵の神姫がステージに上がる。 普段は神姫が2体しか存在し得ないフィールドに今は神姫が14体存在している、しかも最初からティアを13体の神姫が取り囲んでいる、面子は今まで発売されたモデル全て。 それにまだ未発売の騎士型の「ジャンヌ」が加わっている。 そしてショーと言う名の公開処刑が始まった。 しかし、そのとき俺はこの公開処刑を影から見つめる1人の少女のがいることに全く気がつかなかった。 アーンヴァル部隊のレーザーライフルによる4方向からの一斉射撃。 改良ブースターの力でギリギリそれを回避するティアに次はマオチャオとストラーフが2対ずつ襲い掛かった。 各々接近戦用の武装である爪やクローでティアを護る追加装甲版を次々とえぐっていく。 がティアはブースターを100%の出力で開放。敵の神姫ごと思い切り壁にぶつかる。 そうしてティアと壁の間に挟まれた2体が沈黙した。 一方のジャンヌはというと、動くはずが無い。 アレは部隊指揮をつかさどるのだろう。 もしくは軍の大将にでもなった気分でいるのか、手にした剣を地面に突き立て事態を静観している。 壁にぶつかったティアが動き出すより早くハウリン部隊とアーンヴァル部隊の砲撃が次々とティアの装備を破壊していった。 そうして巨大MAを模して構成したパーツは全て破壊されたかに見えた。 だがティアはあきらめていなかった。 破壊された翼を壁にして砲撃を防ぎ、あとは残った火器を全て自動砲撃設定で動き回る。 自動砲撃設定はティアが以前から持っていた能力だ。 レーザーライフルがランダムに最大出力のレーザーを乱射する。ライフルが焼き切れるまでの間になんとか3体のハウリンを葬った。 役目を果たしたライフルを捨て、そのままマシンガンやバルカンで弾幕を張りつつティアは必死に逃げる。 だが奮戦も束の間、ティアは持てる全ての外部装甲および銃火器を破壊されたのだろう、アーンヴァルの砲撃が止んだのだ。 しかし煙が晴れた場所、ソコには背後にあったビルの残骸と、それにのしかかられるようになったパーツの山があったがティアの姿は見えない。 その時点で正常稼動している神姫は8体。 砲戦主体のアーンヴァル3体にマオチャオ2、ストラーフ2。 そしてジャンヌという内訳だ。 ティアの姿が確認できていないというのにジャンヌは眉ひとつ動かさない。 そして本体のみの姿となったであろうティアを残りの神姫に探させる。 が一向に見つからない。さすがに和美は我慢ならなかったのか声を張り上げる。 「ジャンヌ! 貴方の技でその残骸を吹き飛ばしてしまいなさい」 「…了解」 そうしてやっとジャンヌが動き出す。そして残骸の目前まで来ると手に持った剣を構え、一気に振り下ろす。 衝撃波が生まれ、残骸を一気に吹き飛ばす。 がソコにはティアの姿はなく、 「フ……ドコを見てらっしゃるのかしら?」 ドコからとも無くティアの声が会場に響く。 そしてその声の出所をジャンヌが割り出す前に仲間であったはずのマオチャオが突進してきた。 「ぐぅ…なぜ」 ジャンヌがまだそのダメージから復帰しないうちにティアが姿を現す。 その手には3つ又の鞭。 「やっと出したか」 あの鞭は普段リンやティアが愛用している対"G"武装の1つで、あのとても俊敏で変幻自在の動きをする"G"を確実に捉え、粉砕する。 そしてティアの鞭さばきはリンのそれを超えていた、あれなら神姫相手でも十分に通用しそうだと踏んだ俺はアレに賭けたのだ。 元々、ティアの戦闘スタイルはあのようなゴテゴテ装備での乱戦ではなく、リンと闘った時の様な本体の身体能力(あのときは違法レベルだったが)とさまざまな武装によってわずかな敵の隙を突くスタイルだ。 そのために俺は敵の頭数を減らすためにあんな超重装備でティアを送り出したのだ。 先ほどのマオチャオの突撃は鞭を脚に巻きつかせ、反応されるより早くジャンヌに向けて投げ飛ばしたのだろう。 特別製のジャンヌは無事でもマオチャオの装甲は通常のモノ、あの衝撃には耐えられない。 そうしてやっと敵の数が半分になった所でティアの本当の力が発揮される。 ティアが今頼りに出来るのはあの鞭、そして左右の腰に備え付けられたライトセイバー2本、そして左腕にあるシールド1つ。 それでもティアはザコの神姫を次々と葬っていく。 ジャンヌがダメージを受けてからそいつらの動きが鈍くなっている。ソレを見ればいくら俺でもどういうことかは想像が付く。 ジャンヌ以外の神姫はジャンヌの命令によって動く人形だ。そして今のジャンヌは先ほどのダメージによってその命令を送る回路に不具合が発生したのだろう。 それならティアがやることは1つ。 ジャンヌに攻撃を加えればいいのだが………ティアさん??? 貴女は何を?? ティアはひたすらに鈍くなった(とは言えサードリーグなら3回戦には進出できるぐらいのレベルだと思う)神姫を1対ずつ破壊していく。 「ウフフ…こうやって鞭で敵の神姫を倒すのって、カ・イ・カ・ン☆」 どうやらも俺が何を言っても無駄らしいです、勝てるなら早くやっちゃってくださいティアさん(泣) そうして鞭1本でザコ神姫を全て粉砕して、ティアがジャンヌと対峙する。 「あんなオモチャで私の相手が務まるとお思いでしたの?」 そうして勝ち誇るように和美に向かって言う。 もちろんあちらさんの怒りはピークに達していたのだろう。 「ジャンヌ! モードを軍神から騎士に変更。そいつをバラバラにして差し上げなさい!」 「了解」 ジャンヌの雰囲気が変わる、側近の男がコンテナらしきものをフィールドに投げ入れ、ソコから強化装甲、そしてとても長大なランスが出現した。 ソレを空中で受け取り、瞬時に装着するジャンヌ。 本気だと悟ったティアは気を引き締める。 敵はランスを構えて一直線に突っ込んでくる。ティアはソレをかわすが、ランスはすぐに方向を変えて追ってくる。 あの重量の武器を受け止めることは叶わないと悟ったティアは1度距離をとろうとするがソレを許す相手ではない。 なんとかシールドでランスをそらす。だがシールドにはそのたびにヒビが走る。 そうして5度目の攻撃をそらしたときシ-ルドが瓦解。 しかしティアは逃げない。敵の懐に入り込む。 「戦闘経験が少ないのかしら、大振りすぎでしてよ」 そのまま敵にタックルを食らわせる。 敵がランスを手放したのでライトセイバーでソレを切断。 次に本体を、と思ったがそれは敵の剣に防がれる。 さすがに騎士型というわけか、剣技はティアのそれを上回る。 剣1本に対してライトセイバー2本でもティアは押され気味だ。 「騎士をなめるな!」 そうして一閃で両手のライトセイバーを弾かれた。 「すぐに終わらせてやる」 もうティアに後は無いと思われた。 「終わるのは貴女のほうでしてよ」 ティアがジャンヌに飛び掛かる。 「そんなに頭を割って欲しいか!」 ジャンヌの剣がティアの頭部をヘッドギアごと切断せんと迫る。 俺は叫びたかった、でもソレが出来なかった。そうしてティアの頭に剣が触れる 「…だから、大振りはだめだと言ったでしょうに」 その直前に ティアの手首から伸びた糸がジャンヌの両腕を切断していた。 そのままティアはジャンヌの身体を押し倒してマウントポジションを取る。 そして剣を取り上げて突きつける。 「チェックメイト。ですわね」 そうして和美に同意を求める。 「キーーーーー、お好きにしなさい! 小山、ジャンヌを回収、あとは放って置きなさい。 あの小切手は男の足元に、帰りますわよ!」 彼女はとても腹を立てた様子でバタバタと足音を立てて帰っていった。 って、小切手はいいから俺の猿轡をほどいて欲し、って何で首筋に手刀が…そのまま俺の意識は遠くなっていった。 「ずいぶんみっともない格好」 不意に懐かしい声が聞こえた。 「ふぁふぇ(誰)?」 猿ぐつわを解かれ、仰向けになった俺の瞳に写るのは……水玉パンツ 「水た……ぐふェェ」 声の主に思い切り踏みつけられたらしい。 「たとえ見えていても、それを口にするのはダメ」 「わかった、だから足をどけろ」 「…どうしようかな~」 そこにティアがやっとの思いでフィールドからこの展望席までやって来た、そして俺を見て一言。 「ご主人様は極上のMですのね」 ち、ちが。 だから何でそこで踏みつけた足をぐりぐりしますかな、コイツは。 「あ~~分かりました、茉莉様、足をどけてくださいまし」 そうしてやっと水玉パンツ…いや声の主、 『篠崎 茉莉』は足をどけてくれた。 とりあえず紹介しておこう。 彼女の名前は篠崎 茉莉 いちおう幼なじみになるのだろうか? 年は五つも離れているのだが小さい頃は近くの家には同年代の子がいなくて、いつも俺が遊び相手だった。 そのためか今では俺よりロボットなどに詳しく、神姫を買う最後の一押しをしたのは茉莉だ。 小さいころは俺をお兄ちゃんと呼んでくるたかわいいヤツだった。 ただ、小学時代に重い病気になり(俺は妹のようにかわいがっていたからほぼ毎日見舞いに通った)結果一年遅れで進学した。 よって通例なら今大学一年のはずだ。 しかし幼少時代の仲のよさ故か、厄介なことに両親同士で勝手に婚約が交わされていた。 俺がそれを知ったのは大学二年のとき。 確かに容姿は見栄えする方だし、スタイルも悪くない。 しかも基本的に俺を慕ってくれているがまだ俺には決心がつかない状態だった。 俺がなぜこの町にいるのか? と聞くと 「私、亮輔ん家に居候させてもらうことになったから、ヨロシク」 と、当然のように答えたので俺は思考は停止した。 「詳しくは家に帰ってから。ね?」 そうして茉莉は俺の腕を抱き寄せ、そのふくよかな膨らみを当ててきやがった。 「ご主人様、私たちというものがありながら、浮気だなんて(ニヤリ)」 周りの人からは「あんな見せ物になっていたうえに今度は痴話げんか、全く最近の若者は…」なんて視線が突き刺さる。 「だぁーーーーー、わかった、茉莉の話はレストランで聞く。それとティア、今日の騒動はお前が原因だ。だから予定していた買い物はお預け!」 「そんなぁ、100万も儲けましたのに、何故ですの?」 「何でも!! とにかくリンを引き取って、茉莉の話を聞いてからだ」 「じゃあ決まり、早く行こうよ」 そうして俺を引っ張っていく茉莉。 「ああん、ご主人様あぁ置いていかないでぇ~~」 出遅れたと思ったらしいティアが慌てて追いかけてきてジャンプ。 そのまま俺のかばんに潜り込んだ。 そうやって俺の人生で一番にぎやかで、心身ともに擦り切らせることになるであろう1年間が始まる。 ちなみにリンが俺に寄り添う茉莉を見た瞬間に目に涙を浮かべ、次の瞬間俺に鋭いビンタを食らわせたのもほんの序章にすぎないのだ。 ~燐の8 「ホビーショップへ行こう!」~
https://w.atwiki.jp/busou_bm2/pages/140.html
攻略本「武装神姫 BATTLE MASTERS Mk.2 ザ・コンプリートガイド」の簡易レビュー、間違い・誤植・情報抜けの報告をするページです。 ※間違い・誤植・情報抜けの情報には不足があります。新情報がありましたら「コメント」へ情報提供をお願いします。 簡易レビュー 良い点 ライバルの登場条件、ボスキャラクターの攻略などが詳しく掲載されている。 ドロップする景品とその確率、ミミック・強化ミミックの入荷率なども掲載されている。(個人で検証できない攻略本のみを根拠としたデータのwikiへの掲載は著作物の侵害にあたるため厳禁) 特典プロダクトコード「ギュリーノス・ダーク」付属。 悪い点 攻略本単体としては比較的高額の2,300円。 カテゴリ別の武装データの掲載順がゲームと大きく異なり、武装を探し辛い。ゲーム:平仮名、片仮名、漢字、英数字の順。ヴ=は行。(SORTをNAMEにした場合) 攻略本:英数字、五十音の順。平仮名・片仮名・漢字の区別無し。ヴ=あ行。 ゲーム内での確認の可否を問わず、敵神姫の装備が掲載されていない。 後述する間違い・誤植・情報抜けが散見される。 間違い・誤植・情報抜け エウクランテの固有RA入手時期が間違っている。 レーザーグレネード+VCのCOSTが169とあるが実際は195。 「+GC」「+CG」を混同する、などの誤植が全体的にある。 武装入手条件の情報抜け。 入手武装 会場・大会 マスター スキンファクシ+CL ビットブル火器属性タッグ 島津佳美 OSY010 Aガード+MK ハンマー ライフル杯 麻呂
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2272.html
2nd RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~1/4』 「隠してたわけじゃないんだけど、その…………ね?」 「ね?」 と言われても、俺には何のことだか皆目見当がつかない。 キィキィと軋むオフィスチェアの上で体育座りをした姫乃は、苦笑いのような、バツの悪そうな、形容し難い顔を俺の目から背けた。 服装は昨日と似たり寄ったりの、というか年間を通してカッターシャツにロングスカート(夏は半袖、冬は野暮ったいダッフルコートを追加装備。 日ごとに色が変わるだけ)、肩甲骨のあたりまで伸ばした髪は後ろで一つにまとめ、細身のシルエットによく似合っている。 姫乃がこの狭く汚くボロく散らかった六畳一間 (フロ・トイレ別!) にいてくれるだけで空気が綺麗になったように思う。 いや、事実姫乃がいると、玄関からベランダの窓際まで幸せな香りで満たされる。 小説やドラマでよく見かける 「風に運ばれてくる彼女のいい香り」 とはこのことだったのか。 付き合い始める前から度々、講義と部活を終えた後はこうして俺の部屋を訪ねてきてくれるわけだが、未だこの幸香(造語)に飽きることはない。 それとも、慣れることはない、とでも言おうか。 人間、己が身に過ぎた幸せを恐れるものである。 手を伸ばせば触れられる所に姫乃がいることが、怖いのである。 だってそうだろう? 晴れて大学生となって一人暮らしを始めて、借りたボロアパートの隣室に俺と同じ新入生の女の子が越してきて、しかもその子は可愛さと美しさを足して二を掛けたような容姿で、さらに目が眩むほどの笑顔で俺に微笑んでくれて、そんな子が友人になってくれて、今は俺の部屋で体育座りをしてくれているなんて、今この瞬間も 「これは究極の悪夢じゃなかろうか」 と自分の正気を疑ってしまうほどだ。 ――幸福が過ぎる夢は、目覚めてしまえば重荷にしかならないのだから。 「そうか。 ならば私がその重荷を降ろしてやろう」 いつの間にか俺の肩によじ登っていた姫乃の神姫 『ニーキ』 はそう言うや俺の頬を抓った。 いや、神姫の手のサイズだと、抓るというよりは、 「痛い痛い痛い痛い痛い痛いっての!! お前のサイズでほっぺつねりやるとなあ、蟹に挟まれるみたいに痛いんだぞ!!」 「ニ、ニーキ駄目! どうしたのよいきなり弧域くん攻げ……あああああほら内出血してる!」 椅子から転げ落ちそうになるくらい慌てふためく姫乃とは対照的に、ニーキはあくまでクール(?)に 「そんなもの唾でも付けておけば――ヒメ、君の唾である必要はないんだぞ」 と言い放った。 くそ、もう少しだったのに余計なセリフを吐きやがる。 というかハナコといいニーキといい、神姫ってやっぱり読心機能ついてないか? 「いくらコアセットアップチップが高性能だからって、人の心が読めるわけないだろう。 それと弧域、君はヒメに舐められたいのか?」 「ばっちり読んでるじゃねぇか!!」 姫乃の神姫だから持ち主に似て可愛らしいものだとばかり思っていたのだが、よくよく考えると “神姫は持ち主に似ない” ことは貞方とハナコが一片の矛盾も無く証明していた。 「しかし、どんな男かと思えばこんな奴だったとはな。 ヒメが毎日のようにこ――」 「あー! わー! もうニーキ、少し大人しくしてて!」 姫乃に掴み上げられ、パソコンを常備している机の上に降ろされたニーキは言いつけ通り、澄まし顔で大人しくなった。 黙ってさえいれば、悪魔型神姫・ニーキは武装がなくとも神姫としての魅力に溢れている。 空色の髪をツインテールにして、身体は黒を基調とした悪魔色が鈍く光る。 引き締まった顔に尖った耳がよく似合い、バトルの時は氷のような眼差しと凄惨な微笑みが鉄槌を下すのだろう。 フィールドに立つ、ただそれだけでストラーフ型はオーディエンスへのパフォーマンスとなる。 ……それを姫乃が分かっているかは別の話だが。 「なあ姫乃。 なんで神姫を買おうと思ったんだ?」 「それはもう可愛いもの。 すんごく可愛いんだもの。 工大駅前のヨドマルカメラで電球探してたら、おもちゃコーナーの前でストラーフ型神姫がこう、手を振ってくれてね、一目惚れしちゃったの」 貯金はだいぶ減っちゃったけどね、にはは。 と苦笑いする姫乃に、ニーキを買ったことを後悔する素振りはまったく無い。 「ヨドマルなら神姫に呼び込みさせたりもするだろうな。 ――誰かに誘われて買ったり、じゃなくて?」 「ん? 私の周りはホイホイさんばっかりよ。 神姫持ってるのは鉄ちゃんくらいかな」 「ふうん、そうかそうか。 うん、そうだよなあ」 「?」 ツマラナイことで頭を抱える必要など無かったのだ。 姫乃が浮気? 無い無い無い無い断じて無い。 先程までの杞憂は、そう、ちょっと貞方に遅れを取った焦りから生まれたものだったのだ。 ……と強がってみても、心配など皆無、と言えば嘘になる。 一ノ傘姫乃の魅力があれば男なんて選び放題好き放題だろうに、何故俺なんかを選んだのか、姫乃が隣にいる時はそんな不快な考えばかりが頭を過ぎってしまう。 たかが人形一体で勘繰ってしまうほどに。 姫乃の裏の顔を想像してしまうほどに。 「どうしたの弧域くん。 顔が怖くなってるよ?」 そんな俺の一人相撲を知ってか知らずか、姫乃はまた椅子の上に戻って体育座りしている。 裏の顔、ね。 そんなものがあっても俺はすべてを受け入れる、なんて歯の浮くような台詞を吐くつもりはないけれど、ドス黒い姫乃というのも、それはそれで悪くない。 「しかし姫乃も神姫マスターだったとはね。 俺も買おうかなあ。 んでもってニーキと勝負してみたりさ、楽しそうだぜ」 「え? ……あ、うん、そう……かな」 姫乃の顔が再び、なんとも形容し難いものに戻った。 さっきからどうも様子がおかしい。 分かり易過ぎるほど神姫の話題を避けているようだが、その割にはヨドマルでの出会いをあっさりと白状(告白?)してみせたし、目を逸らすのは決まってどうでもよさそうな話の時ばかりだ。 思えば、俺が神姫の話をしようとした時も、興味がないフリをして話題を避けているようだった。 俺が小一時間ほど “不出来なCDほどフリスビーに向いているのは何故か” を語った時も話に乗ってくれた (というより説教された) 姫乃が、何故こんな話題に口ごもる必要がある? 思い当たるふしは……あー、カツカレーの食べ過ぎだろうか。 「カツカレーで何かが変わると思っているのか。 ヒメ、君の彼氏は馬鹿だぞ」 「心を読むな! そしてもうちょっとオブラートに包めよ!」 「否定はしないんだな」 「お前、人の揚げ足取るの大好きだろ」 「君が見下げ果てた野暮天だからヒメが困っているんだ」 「ちょ、ちょっとニーキ、あんまり――」 「たまには言葉で真っ直ぐ伝えてやるのもこの男のためだぞ、我がマスターよ」 「~~~~っ」 ニーキは言いたいことを言い終えたのか、再び元の寡黙な人形に戻った。 その隣で椅子をキイキイと揺らす姫乃は自分の膝に顔を埋めて――黒髪の間からのぞく耳を真っ赤にしていた。 「言い難い事、あるのか?」 こくり。 頭を縦に動かした。 「怒ってる、とか?」 ふるふるふる。 頭を左右に振った。 「悲しい事だとか」 ふるふるふる。 「あー、じゃあ恥ずかしい事だとか」 こくりこくり。 恥ずかしいこと? 今までの会話のどこに恥ずかしがる要素があった? ますますわけがわからない。 一人で混乱していると、くぐもった声が聞こえてきた。 「……だって、神姫なんだもの」 「うあん?」 「弧域くん、神姫――欲しい?」 「え、くれるの? でもなあ、ニーキはちょっとキツいしなあ、」 「ニーキは駄目。 そうじゃなくて、自分の神姫、買いたい?」 欲しいかと問われれば、そりゃあ欲しい。 着せ替えのように武装させてみたいし、バトルだってさせてみたいし、この隙間風が寂しい部屋に神姫がいれば少しは寒さも和らぐのかもな。 だが、物はいつか壊れる。 熱力学第二法則(第一だったか?)がある限りどんな物でも例外ではないし、神姫だってもちろんその例に漏れない。 負担が掛る可動部はメンテナンスをしていても取り替えが必要になるし、バッテリーも技術が進んだとはいえ充電を繰り返すごとに容量が減っていく。 これらはまだ取り替えが効くからいい。 だがCSCなんて、外部からの衝撃でどんな影響を受けるか分かったものではない。 ――ホイホイさんになぶり殺しにされたマオチャオがそうだったように。 未だあのマオチャオが、持ち主だった弓道部部長の泣き叫ぶ顔が、頭から離れないのだ。 ……あんな別れ方をするくらいなら、最初から神姫なんて持たないほうがいい。 「どうだろうな。 欲しいような気もするし、欲しくないような気もする」 「どっちよ。 欲しい? 欲しくない?」 「俺にもよく分からないんだ。 神姫で遊びたくもあるし、なんつーかほら、犬とか猫とか、死に別れが嫌だから飼いたくないってよく聞くだろ。 あんな感じ」 「弧域くんっていつもはハッキリしてるのに、たまにものすごく優柔不断になるよね」 何故俺は責められてるんだ? 「いいだろ別に。 ハッキリさせなきゃいけないことでもないし」 「よくない」 「いいだろ」 「よくない」 「なんで」 「だって…………よくないんだもん」 姫乃が何を言いたいのか分からないが、少なくとも二人の間うっすらと見える溝をゼネコンが本腰を入れて掘り始めたことだけは確かだった。 俺にどうしろってんだよ、ゼネコンは誰の命令を受けて着工したんだ。 国か? 国なのか? 国土交通省のせいで俺達は付き合ってから初となるケンカをしようとしているのか! 「何がよくないんだよ。 俺が神姫を買っちゃ駄目なのか?」 「駄目っ! ……じゃない、けど……」 「なら買わないほうがいいのか? そりゃあ神姫は高いからな、そう簡単には買えないけどさ」 「そうじゃなくて、そうじゃないの!」 「どっちだよ! 俺は買うべきなのか、買っちゃ駄目なのか!」 「だって! ……だって……」 「だってだって、さっきからそれば――」 言いかけて無理矢理口を噤んだのだが、もう遅かった。 さっきよりも顔を真っ赤にした姫乃が、目に涙を浮かべて俺を……敵のように、睨んでいる。 怒った顔も可愛いんだなあ、なんて考えてる暇があれば謝罪の言葉の一つでも出せばいいものを。 何が悪かったのか皆目見当もつかない俺はどう謝っていいかも分からない。 言葉が出ない。 ぐぅの音も出ない。 希望も何も出てきやしない。 ああ、こりゃもう駄目だ、嫌われたな…………短い春だったな………… 「だって…………だって…………神姫だって、女の子なのよ!!」 「……………………は?」 「神姫はずっと持ち主の側にいるのよ! 弧域くんがもし神姫買ったら、弧域くんはずーっとその神姫と一緒なのよ! わ、私がいない時も!!」 「……………………」 「そんなの! ……そんなこと………………嫌なの」 「……………………」 「ごめんね。 幻滅したよね。 私、すごく嫉妬深いんだ」 「……………………」 「嫌いに、なったよね」 「ンナワケねぇだろおおぉぉぉおおがあぁぁぁああぁぁああああ!!!!」 椅子の上で丸くなっていた姫乃を抱え、ベッドに放り投げた。 「きゃっ!?」 ああもう、悲鳴も可愛い! あっけにとられた顔も可愛い!! こんなに可愛いのに? こんなに愛くるしいのに? 頼まれても嫌いになれるものか!! 「ちょ、ちょっと、弧域くん? 落ち着こう、ね?」 「安心しろ。 俺の頭は今、一面のコバルトブルーだ」 「晴れてる! 頭が晴れてる!」 目を丸くした姫乃に覆い被さるように手をついた。 アルミ製のベッドがギシギシと今にも崩壊しそうな音を立てた。 このベッドもついにシングルからダブルに昇格する時が来たか(?)。 自分の呼吸がどんどん荒くなっていくのが、他人事のように感じる。 体が、心臓の鼓動が、自分のものでないような感覚。 だがそれでも俺は、自分を見失うわけにはいかない。 俺は今、姫乃の目やら唇やら何やらを凝視するのに忙しいのだ! 「あ、あの、私まだ心の準備といいますか、心臓がドキドキして苦しいんですけど……」 「安心しろ、俺もだ。 だがそんなもの、勢いだろう?」 「い、勢い? そ、それにね……その……」 「まだ何かあるのか。 そうだな、今の内に全部言っておくといい」 「まさかこうなるなんて思ってなかったから……」 「うん、そうだな」 「………………今日の下着、あんまり可愛くないの」 「さらば理性ィ!!」 カッターシャツのボタンを一つ一つ外すのも間怠っこしい!! 安心しろ姫乃、今直ぐ全ボタンを引きちぎって、その可愛くない下着とやらを拝んで―――― 「獣め、そんなに規制されたいか。 レールアクション『血風懺悔』」 ずっ。 そんな音が眉間の辺りから聞こえたかと思うと、勢い良く赤いものが飛び出してきた。 「うおおおおおおお!?」 なんだこれ、なにがあった、興奮しすぎて血管が切れたか!? とにかく止血しようと、ベッドに頭を押し付けた。 「きゃあああああああ!? 弧域くん大丈夫!? え~っと、え~っと、そうだ、頭より心臓を高くしないと!」 「『血風懺悔』――受けた者は血風を撒き散らしながら許しを乞うように頭を地になすりつける」 私の得意技だ。 と勝ち誇るような声が聞こえる。 腹立たしいくらいニヒルに笑っているのだろうが、今は視界一面が血で濡れたベッドカバーだ。 「ニーキ!! 弧域くんに恨みでもあるの!? 初対面でしょ!?」 「ヒメも案外野暮天なのかもな。 君達は君達が思っているよりもずっとお似合いの仲だ」 「おいコラ、マジで血が止まらねぇぞ!」 「どういうことよ」 「さっき自分で言っていただろう、 “神姫だって、女の子なのだよ”」 「こ、このやろう人様の眉間に穴空けといて無視かよ……上等じゃねぇか、この借りは神姫バトルで返してやる!!」 叫んだことで穴が広がり、ベッドのシミはさらに広がっていった。 このとき俺は、絶対に武装神姫を買ってニーキを同じ目に合わせてやることを、固く心に誓った―――― NEXT RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~2/4』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/636.html
左腕と左脚、左の乳房のみを「サイフォス」ベースの装甲で覆った姿でエルギールはヴァーチャルスペースに現れた 金管楽器の様な凄まじく派手な銀色の装甲は、今回のフィールドである湖畔の風景を見事に天地逆さまに写している 『随分軽装だな?まぁホントの白兵戦になりゃぁ神姫用の武器は「避けられない」方がヤバいって言うし、ある意味ありっちゃありか?でも所詮そんだけだろ?ビシッとキメてやろうぜ!華墨』 (確かに軽装だ・・・が・・・・) 武士の台詞を華墨は半分聞き流している ここ数回のバトルで、華墨は少しずつではあるが自らのデフォルト武装の取捨選択を始めていた 初戦の教訓と「どうせ相手に密着するのだから」という事で、十字戟もメインボードから外し、主力武装は腰の大小に、やや肩周りの可動を阻害する肩当を捨て、ジョイントを介して「垂れ」の部分だけを直接装備、鬼面と喉当ても外していた 最後の二つは今回のバトルに際して急遽実行したのだが、それというのもポッドに入る前にちらりと、エルギールの主力武装とおぼしきものを目にしたからだ それは剣呑な黒い刀身に、禍々しい朱い模様がうねうねと描かれた、非常に大振りなダガーだった(殆どショートソードと言っても良かったかも知れない) 神姫が外出する時に、手持ちの得物の中から携行に便利な物を選んで持ち歩くというのは聞いた事があるが、華墨には何故だか判らないがそれが「護身用の武器では無い」という強迫観念めいた確信があった それで、視界と装甲の二択に(勝手に)迫られて、結果折衷案で、「兜は残して仮面は外す」という結論に至った訳だ いずれにしても、未だに胸の奥をざわざわと撫でられる様な感覚はおさまらず、目の前の軽装な姿を、武士程楽観視出来無いのだった 第伍幕 「Merciless Cult」 自分と相手の戦力差がどの程度なのか?正確に把握するには結局ぶつかってみるのが一番良い。華墨は覚悟を決めた ざくざくいう足音と共に、バーチャルの下生えが踏み潰されてゆく。(いける、いつもの私だ)ポニーテールを地面に水平になるくらい迄浮かせながら華墨は走る。右手で太刀を抜き放ち、気合一閃、一気にエルギールに斬りかかる! 白刃が虚空に白い影を描き、華墨の天地は逆転する。遅れて知覚される苦痛 「ハン!速さと装甲にモノ言わせて真っ直ぐ突っ込んで殴るだけの、単なるゴリ押しじゃない!?案の定大した事無いわね?」 (なんだ!?何をされたんだ?今!?) 地面を抉る程に叩き付けられた華墨だったが、即座に立ち上がり、エルギールから距離をとる 「どうしたの?躓きでもしたのかしら?ホント情っさけ無いわね」 憎まれ口を叩くエルギール。その手に武器らしきものは握られていない。華墨が警戒していた短剣も、まだヒップホルスターの中だ 「・・・」 「つば」を鳴らして太刀を構え直す。いつもの様に、加速をつける為の攻撃型ではなく、切っ先を相手に向けた防御よりの型だ 「・・・アタシってそんな気が長い方じゃ無いのよね・・・来ないんなら」 ヒップホルスターから短剣を抜き放つエルギール。一瞬、朱色の模様が生物の様にうねった・・・様に感じた 「こっちからブン投げてやるまでよォ!!」 「!!」 明らかに短剣が届く間合いではなかった、が、エルギールの剣は鋼線で接続されたいくつかの節に別れ、異様な動きでもって華墨の左腕に巻き付いたのだ。食い込んだ刃が、華墨の人工皮膚を・・・裂く 「くそっ!!」 鋼鉄の毒蛇に腕を拘束されたまま切り込む華墨。だが、引き手を殺されたへたれた斬撃は、あっさりとエルギールの腕甲でいなされ、挙句そのまま首を掴まれる (・・・ぐっ!) くぐもった呻きが漏れる。それは人間的な条件反射だが、神姫が「人がましく」振舞う為に動きの基礎に組み込まれている 「けだものを捕らえるには罠を使うでしょう?アタシはその罠。さぁ、ホントのアタシのフルコンボってやつを見せたげるわ!!」 首を掴んだ左手が捻られる、同時に右足が払われ、左腕の拘束を引き外す動きでそのまま吊り上げられる (これが・・・!?) 「まずは天(転)」 異様な体勢で転ばされ、なんとか残った右腕で受身を試みる 「間に人(刃)」 ぞぶりだかどすだかいう様な汁っぽい音と共に、引き抜かれ空を舞っていた刃が右腕に突き刺さる たまらず、そのまま顔面から地に倒れ付す華墨。打撃系の衝撃が、装甲ごしにでも強烈なダメージを全身に及ぼした 「最期は地に血の花を咲かせて逝きなさいな!アンタの名前に相応しい幕切れじゃない!!」 エルギールの哄笑、無理矢理体を起こそうとする華墨だが、最早戦闘能力が無きに等しいのはいかなる目で見ても明白だ (立ち上がる・・・ちから・・・) 武士が何かを叫んでいた、残念ながら華墨には何を言っているのか全く判らなかったが・・・ (ここで立ち上がる・・・ちからが・・・) だが、そんな力は華墨の中には無かった。愛も、怒りも、不屈の意思も、未だ華墨は本当の意味で理解など出来て居なかった 虚ろに過ぎるジャッジのマシンボイスを、ヴァーチャルスペースに全く意識があるままに、華墨は聞いていた 「華墨・・・負けちまったのか・・・?」 武士は腰を浮かせて、呆然とディスプレイを見ていた その肩に琥珀の小さな、冷たい手が掛かる迄、武士は彼女が入ってきた事にすら気付いていなかった 「ね、判った?闘うってこういう事なんだよ。体はヴァーチャルでも、彼女らが感じる恐怖は本物なんだ。」 小さな、だがはっきりした声だった 「だって・・・武装神姫って、バトルする為に創られたんだろ?」 のろのろと首を回す武士。琥珀の、多分名前の由来なのだろう琥珀色の瞳は、感情を深い所に隠していて、思考を読み取る事は今の武士には不可能だった 「確かに彼女達は闘う為に創られた。でもね、闘争本能を持たされていても、彼女達が本当に闘いを望んでいるかどうかは判らないんじゃないかな?」 「・・・え?」 「判らない?君は彼女のマスターだけど彼女は本当の意味で『君の神姫』になっているのかな?」 「当たり前だ!神姫は登録した人間をマスターとする様に出来てるんだろ?」 語気を強める武士、だが琥珀の口調にも表情にも、僅かな変化も見られなかった 「プログラムされた知性、プログラムされた感情、なら、忠誠心だってプログラムされたものなんだろうね」 「・・・」 にこりともしない、が、別に怒りも悲嘆も、いかなる色も彼女の表情には現れないのではないかと、武士は思った 「・・・」 「プシュ」と空気の抜ける様な音がして、華墨のバトルポッドが開く ゆっくり顔を上げる華墨に一瞬目をやってから踵を返す琥珀 「じゃ、するべき事はしたから・・・縁があったらまたね・・・」 視線だけ二人に向けて言い放つと、もうそのまま、むにむにと柔らかい足音だけ残して琥珀は去っていった 「・・・負けてしまったよ・・・マスター・・・」 「・・・あぁ・・・」 ここで取って付けた様な労いの言葉を吐く事が出来るのか?吐く資格があるのか?労ってやるべき存在?神姫は・・・? 玩具にそれをするのか?人間にそれをしないのか? 「・・・無事でよかったよ」 武士は恐ろしくばらばらな表情でようやくそれだけ吐くと、華墨を抱え上げポケットに入れ、無言でブースから出るのだった 「見事な『壁』役だったね」 「僕は厭だよ。本当はこんな役なんて」 「買って出た苦労だろう?私は何も頼んじゃいない」 「・・・・・」 「・・・君にとってはどうなんだい?」 「何がさ?」 「神姫とは高性能な知性を持った玩具なのか・・・?身長15センチの人間なのか・・・?君が佐鳴武士に叩き付けた問いについて・・・だよ」 「・・・そういう話は川原さんとでもしてなよ。帰ろうか?エルギール」 主よりも遥かに派手な神姫を肩に乗せて去る少女を見ながら、皆川はいかにも意味ありげに不気味に微笑んで見せるのだった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/324.html
武装神姫のリン 第12,5話「進化の予兆」 これは俺とリンが小さな挑戦者を迎える前日の話である。 「う~ん……これはダメか」 「ダメですねぇ」 「じゃあ、こっちは?」 「コレもちょっと違和感が…」 「あーーー これで終わりか……」 俺とリンは戦闘スタイル、技に変化をつけるべくエルゴに行ったのだが、良いものが無く結局流通向けの神姫向け装備のカタログに目を通しきってしまった… 「だめかな??」 店長が話しかけてくる。 このエルゴの品ぞろえの豊富さ(数もさることながら厳選されていて、かつ比較的リーズナブルな品)を持ってさえ解決のしようが無い。 今回のお目当ては「空戦装備」 セカンドリーグともなると空を飛べないというストラーフでは当たり前のことでさえ戦闘での不安要素になってしまう。 例えばホーミングミサイルを次々と避けるのはステップだけではどうしても限界がある。 結果、ミサイルや射撃武器を扱う「やり手」が相手の場合は5割の確率でこっちが距離を詰める前に結構なダメージを負ってしまう。 なので思い切って飛行できるパーツを追加しようと思ったんだけど…カタログにはリンの好みに合うパーツが無かった。 アーンヴァルのユニットは直線方向には絶大な推進力を誇るがどうしてもユニットが大きめになるうえ、熟練しない限り小回りは期待できない。 今までのリンのスタイルはレッグユニットのばねを生かしたステップや宙返りなどで敵を翻弄する戦い方だ。 だから空戦でも膨大な推進力が必要なわけではなく、どちらかというとジャンプを補助する瞬間的な加速だ。 なので既存のパーツでは条件に合うものが無いという現状だ。 まあ個人ディーラー系なら条件に見合ったパーツも見つかるかもしれないが、高価だし破損時の保証が無い。 保障があれば格安で修理してもらえるが、保証がないと修理でも新品の6割ほどのお金が掛かる。これはリーグで闘う上で重要だった。 「う~んなかなか無いものだね~ 普通にコレをいれば見つかると思ったんだけど…」 店長もあきらめムードだった。 俺も朝から何時間もカタログとにらめっこを続けていたためか、結構肩がこってたりする。 まあそこは今リンがほぐしてくれてるんだけど 「今回はあきらめて改めてネットで情報収集してはいかがですか?」 肩のコリをひざた足を使ってほぐしながらリンが提案する。 「まあ、しょうがないか…」 そうしてエルゴを後にした。 とソコに電話が。表示を見ると係長と出ている。今日は休みなんだけどな。と思いつつ通話ボタンを押した。 「はい、藤堂です。」 「お、今日は早いな。」 「用件はなんでしょうか?」 「ああ、先日君が契約を取り付けた会社なんだが、君の提案したユニット内部のパーツだけじゃなくて神姫の装備品販売も視野に入れているとことらしい。で近々もう1度君と話をしたいそうだ」 「そうですか…分かりました。どうも」 何気なく電話を切りそうになったが俺はそこでピンと来た。 「あ、すみませんけどあちらさんの会社の方がいまそっちにいたりするんでしょうかね?」 「ああ、電話じゃなくて直接ウチの来てくれたよ。で君が休みでちょっと落胆してるな」 「分かりました30分ほどで行きますので、すみませんがよろしくお願いします」 「おい、来るのか? 仕事熱心だねぇ わかった伝えておくよ」 いそいで電話を切ると俺はリンを連れて走り出した。 そうしてすぐさま家に帰って、スーパーに出かけてる茉莉とティアにメモを残し、スーツに着替えてリンにはフォーマルっぽい服を着せて愛車を駆って会社へ向かった。 高速を使って会社へは20分ほどで到着。 そして俺は取引先にあるプランを持ちかける。 それは「島田重工製MMSの強化ユニット販売」だった。 具体的にはアーンヴァルとストラーフに一番効果の出る強化ユニットを製造し島田重工のライセンスをもらって販売するというわけだ。 島田重工の承認があればかなり大規模な展開が可能である。たしかに承認を取り付けるのは難しいと思うができればそれは大きな力になる。 強化ユニットの案はかなりの数が頭の中にあった。 というのもバトルをはじめてからというもの、エルゴに行く前から量販店では必ずリンに合うパーツを探すことを日課としていたためだった。 まあ捜索の結果は毎回散々だったけど… この強化ユニットのプランを取引先も善処するということで今日は話を終えた。 その数日後、小さな挑戦者たちに初めて「烈空」を破られてしまった俺たちはトレーニングに励んでいた。 リンに向かって無数のミサイルが飛来する。 しかしリンは銃はおろかナイフ1本でさえ持っていない。 「そこ、バックステップから跳躍!」 「はい!」 「ランダムに連続ステップ!」 「!」 「そこだ、さいたまっは!!」 「ええぃい!!」 ディスプレイ上にはミサイルの着弾ギリギリから地面を滑るかの様に移動するリンの姿。ミサイルは誘導が切れて地面に着弾。次々と誘爆していった。 そうだ、次に俺たちが目指したのはあるアーケードゲームのテクニック。 その名も「さいたまっは」 詳しい説明は割愛しようw 現状の装備で敵のミサイル等の誘導の高い攻撃をできるだけ回避するために会得した技術だ。 まあこれはバーチャル限定なんだけど…セカンドなら通用すると思う。 そこに電話が、相手は取引先 「もしもし、藤堂ですが…」 「休暇中にいきなりですみません。」 「いえいえ、で話とは?」 「あの件なんですが…話はけっこうすんありと行きまして、島田重工さんはトライアルにあなたの神姫を使いたいそうです。」 「な、本当ですか?」 「はい、なんでも強化パーツは島田さん所でも近々プランを立ち上げようとしていた所だったらしいです。で強化のコンセプトもほぼ同じらしくトライアルで結果が出せれば藤堂さんのプランをそのまま採用するとのことです」 「分かりました、近く返答をしますと伝えてください」 俺は震えを押さえて電話を切った 「マスター?」 俺の様子を不思議に思ったリンが首をかしげる。 俺はそんなリンをいきなり抱きしめた。 「ちょっ、い、いきなりはダメですぅ」 「すまない、舞い上がっちゃって」 「で、なんだったんですか?」 「ああ、リンにも空が飛べるようになるって」 「本当ですか! でも飛ぶだけなら…」 「安心しろ。お前…というかストラーフに合った高機動型のユニットだ。」 「でもトライアルって」 「俺はリンのことを信じてる。お前も俺を信じてくれれば必ず結果は出るさ」 「マスター」 「明日からがんばるぞ!!」 「はい!」 そうして日が暮れていく中を俺はリン肩に乗せて歩く。 しかしそのパーツを別の場所で使うことになるとは、俺たちはそのときは全く考えもしなかったのだ。 燐の13 「進攻」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2142.html
ウサギのナミダ ACT 1-22 ◆ ギャラリーにはどう見えているだろうか。 おそらくは、力と技がぶつかり合う、真っ向勝負に見えているだろう。 確かに、雪華は正々堂々、真っ向勝負を挑んできた。 逃げない。揺らがない。 ミスティ得意のレンジに踏み込んでまで勝負を挑んでくる。 その姿勢を貫き、勝利を目指す。 それこそが『クイーン』の二つ名の由来であり、神姫プレイヤーから人気を集める理由だった。 だが、バトルの当事者は思い知る。 真っ向勝負? とんでもない。 劣勢とか、そう言うレベルじゃない。 『そこでリバーサル! 二連撃!!』 菜々子の指示が飛ぶ。 もう何度目かの得意技。 この間合い、このタイミング、この速度、そして身体をロールさせながら繰り出す二連撃。 熟達したアーンヴァルでも、このリバーサル・スクラッチはかわせない。 だが。 雪華は、これを紙一重でかわす。手にした剣で反撃すらしてみせる。 「くっ……!」 正々堂々? 真っ向勝負? 違う。 これは「練習」だ。 こっちの本気を練習台にしてしまう、圧倒的実力差。 ミスティは敵を見上げる。 空中に浮かび、羽を広げた雪華は、まるで降臨した大天使のようだ。 その美しい姿に、ミスティは戦慄した。 「本身は抜かないのかよ!?」 「あれは、そう簡単に抜けるもんじゃないのよ!」 虎実の叫びに、菜々子は応える。 虎実は、ミスティの攻撃が雪華に全く効いていないことを見抜いているようだ。 『本身を抜く』には、試合前からしっかり心構えをする必要がある。 バトル中に切り替えるような便利な使い方はできない。 それに、たとえ本身を抜いたところで、食い下がれるかどうか。 (……まさか、これほどとは) 菜々子は戦慄する。 正々堂々のバトルロンドで、こうもあしらわれるのは初めての経験だった。 どうすればこれほどの実力が身につくというのか。 だが、諦めるわけにはいかない。 せめて一矢報いなくてはならない。 『エトランゼ』の名に賭けて。 そして、遠野とティアにつながなくてはならない。 菜々子は絶望と戦いながらも、ミスティに矢継ぎ早に指示を出していく。 ■ 帰りの電車の中、わたしはずっと考えていた。 マスターのこと。 マスターがわたしを守るために、すべてを賭けてもいいと、言ってくれたのだという。 エルゴの店長さんがそう言っていた。 わたしには、マスターの想いが分からない。 わたしの過去が暴かれたせいで、あれほど酷い目に遭わされたというのに。 それでもなお、わたしを自分の神姫にするために、全力を尽くしてくれている。 マスターのその想いが伝わって、店長さんを動かし、刑事さんを動かし、風俗のお店がなくなって、多くの風俗の神姫が救われた。 それほどの大きな想いをわたしに向けてくれている。 なぜですか? なぜ、それほどまでに、わたしにこだわるんですか? わたしはそんな価値のある神姫ですか? わからない。 わかりません。 わたしにできることなんて、マスターのそばにいて、マスターの指示通りに走るこくらいなのに。 シャツの胸ポケットから、マスターを見上げる。 マスターは物思いに沈んでいるようだった。 この間までのつらそうな表情でないのは救いだったけれど。 わたしはマスターの心に寄り添えないままだった。 刑事さんはわたしに、素晴らしいマスターの神姫であることを忘れてはいけない、と言った。 それはもちろんなのだけれど。 そのマスターのために、わたしは何がしてあげられるんだろう……? □ 時間がないので、昼食は電車の中でパンをかじった。 一度アパートにとって返し、ティアの武装一式を手にして駅前に戻る。 ゲームセンターに着いた時には、久住さんの電話から、もう二時間以上が過ぎていた。 久々のゲームセンターの入り口。 俺は少し感傷的になる。 一歩を踏み出すのが少し怖い。 俺は店の出入りを拒否されているわけで、躊躇するのも分かって欲しいところだ。 久住さんはいるだろうか。 自動ドア越しだと、奥の様子は分からない。 彼女がいてくれないと、俺は針の筵なんだが。 それでも俺が足を進められたのは、今朝方の出来事があったからだろう。 すくなくとも、もう店に黒服の男たちが現れることはない。 自動ドアが開く。 まず俺の耳に聞こえてきたのは、神姫の怒声だった。 「なぜだっ!! なぜあんな淫乱神姫にばっかりこだわるんだ!?」 叫んでいるのはハウリン。 その声を受け流しているのは、銀髪のアーンヴァルのようだ。 「迷惑なエロ神姫なんかより、あたしの方がよっぽど強いのに!!」 「随分とご挨拶だな、ヘルハウンド」 俺が静かに言うと、武装神姫コーナーにいた全員が俺を見た。 「黒兎のマスター……」 ヘルハウンドは怒りの眼差しを俺に向けてきた。 憎悪すら込められていそうだった。 「……遠野くん!」 ギャラリーから抜け出して、久住さんが駆け寄ってきてくれた。 いつものようにジーパン姿のラフな格好。俺は安心したような、残念なような、複雑な気分になった。 「連絡ありがとう。……遅くなってごめん」 「ううん。来てくれてよかった」 いつもよりも微笑みが弱々しく見えるのは気のせいだろうか。 そのとき、ギャラリーの一角から、声があがった。 「おいっ! 黒兎のマスター!! ど、どの面下げてここにきたっ!!」 三強の一人、『ブラッディ・ワイバーン』のマスターがこちらを指さして喚いている。 俺にはそれほどショックはなかった。 こうした中傷は予想の範囲内だったので、心構えもできている。 と、いきなり久住さんがワイバーンのマスターを睨みつけた。 「わたしが呼んだのよ。文句ある?」 耳が凍傷になってしまいそうなほどに冷たい声。 ワイバーンのマスターはそれだけで、急に黙り込んでしまった。 ギャラリーも、何か言いたげな表情だが、黙ったままだ。 ……いったい、どうなっているんだろうか。 俺が驚きを隠せずにいると、久住さんの後ろから、さきほどの銀髪のアーンヴァルを肩に乗せた青年が近づいてきた。 「あなたが、ハイスピードバニー・ティアのマスターですね?」 人が良さそうに微笑む青年と、真剣な面もちの銀髪の神姫。 その後ろに、カメラ用のベストを着用した、年上の女性がいる。 「……遠野くん、彼らがティアを助けてくれたの」 「高村優斗です。こちらは僕の神姫で、雪華」 青年とその神姫は、礼儀正しく会釈した。 それから、後ろの人物を示し、 「それから、この人は、僕らの取材をしている、『バトルロンド・ダイジェスト』の三枝めぐみさん」 「よろしく~」 三枝さん、というその女性は、ひらひらと手を振った。 俺も挨拶する。 「遠野貴樹です。それと、俺の神姫のティア」 「は、はじめまして……」 「ティアを助けてもらって……助かりました。感謝してます」 もう一度俺はお辞儀をした。 顔を上げると、高村と名乗った青年は、ゆるやかに首を振っていた。 「いえ、大したことではありません。 僕たちも、対戦希望の相手を助けられてよかった」 やはり、そうか。 俺はその一言で確信する。 この青年と神姫は、海藤の家で見た映像の、彼らだ。 「まさか、あの『アーンヴァル・クイーン』がティアを助けてくれたとは、正直驚きです」 「僕たちも驚いていますよ。……ああ、僕たちのこと、もう知ってるんですね」 「……秋葉原のチャンプが俺たちと対戦を希望するなんて……冗談じゃなかったんですか」 「まさか。冗談であんなこと言ったりしません」 高村はそう言って微笑んだ。 やたらと人が良さそうな青年だと思う。 その高村の肩に座る、美貌の神姫が口を開いた。 「あなた方との対戦に、ここまで足を運ぶ価値がある、と考えてのことです。 バトルが所望です。いかがですか、『ハイスピードバニー』のマスター?」 長い銀髪を背に流した神姫の言葉は、威厳すら備わっているように感じられる。 なるほど、『クイーン』二つ名は伊達ではない、か。 俺は雪華の問いに、静かに答えた。答えは決まっていた。 「残念だが、お断りする」 ギャラリーがどよめいた。 全国大会レベル、しかも優勝候補とのバトルだ。対戦してみたいと思う方が普通だろう。 しかも、三強の対戦希望を断ってまで、俺たちとのバトルに集中しようとしているのだから、神姫プレイヤーなら受けて立つのが筋と言うものだ。 久住さんが俺の肩にそっと手をおいた。 「遠野くん、彼らはティアを助けてくれたのよ?」 「わかってる。でも、それとこれとは話が別だ」 その手を、俺は邪険にならないようにそっと、はずした。 そして、俺は雪華に向き直って言い切った。 「ティアを助けてくれたことには感謝してる……本当に、感謝してもしきれない。 でも、君たちとバトルはできない」 「なぜです? 理由を教えていただけますか?」 「……君たちがマスコミの取材を受けているからだ」 高村の背後にいた女性は、きょろきょろと辺りを見回すと。 「あ、あたし……!?」 三枝さんは、自分を指さして、びっくりしていた。 俺は高村に話を続ける。 「対戦を申し入れてくるんだから、今俺たちがおかれた状況は知っているんだろう?」 「あぁ、うん。先週来たときに、どうも様子がおかしかったので、調べさせてもらいました」 「だったら分かると思うけど……いま、こんな風に俺たちがゲームセンターで歓迎されていないのも、雑誌記事のせいでね。 今俺は、完璧なマスコミ不信なんだ」 「……それで、僕たちの挑戦を受けないのと、どういう関係が?」 「『バトロンダイジェスト』の、君たちの記事は俺も読んでる。テレビ放送であんなことを言ったんだ。当然、俺たちとのバトルも記事にするつもりなんだろう?」 雑誌記者の三枝さんは俺の言葉に頷いた。 「だったら、対戦なんて受けられない。結果がどうなるにせよ、何を書かれるか分かったものじゃない。今の状況に拍車をかけられたら、たまらないからな」 「……ちょっと! さっきから黙って聞いていれば随分な言い方ね! うちとあんな低俗雑誌を一緒にしないでもらいたいわ!」 三枝さんがたまりかねたように口を挟んだ。 彼女がカチンときているのももっともだ。 なぜなら、俺自身、わざとひどい言い方をしているのだから。 「俺からしてみれば、大して変わらない。 三枝さん、と言いましたか。 あなただって、バトロンダイジェストの記事を書くにあたっては、俺たちに無様に負けて欲しいでしょう? 『クイーン』の連載記事なら、俺だって雪華の華々しい活躍が書きたい。 俺たちみたいな醜聞のただ中にいる神姫プレイヤーを叩きのめす記事なら、うってつけですから」 「なんてこと言うの……うちに記事が載れば、あなたたちだって、評価があがって、誤解が解けるかも知れないじゃない!」 「随分と上から目線ですね。 俺は取材をしてもらいたいだなんて、一言も言ってない。 むしろ迷惑だ。 だったら、あなた方はむしろ、取材させてくださいとお願いする立場なんじゃないんですか?」 三枝さんは言葉に詰まった。 少し心が痛む。 マスコミへの不信感は本当だ。だが、三枝さん個人に恨みがあるわけじゃない。 三枝さんをダシにして、このバトルを断ろうとしている。だから、彼女に悪いところがあるわけではないのだ。 久住さんの手が、また俺の肩におかれた。 「遠野くん……言い過ぎよ」 「……わかってる」 俺は一瞬だけ、彼女の手に触れた。 久住さんはため息をついただけで、何も言わなかった。分かってくれたのだろうか。 俺と三枝さんが睨み合う。 一瞬の沈黙。 それを破ったのは、雪華の声だった。 「それならば、ティアとの対戦は取材をしないようにしてもらいます」 「って、ちょっとぉ!?」 あわてたのは三枝さんだ。 「あなたたちとは、全国大会までの動向のすべてを取材する契約でしょう!? たとえ草バトルとはいえ、取材しないわけにいかないわよ!」 「ならば、契約を解除します。そうすれば、ティアと戦える」 三枝さんが絶句した。 マスターの高村が口を挟む。 「雪華……『バトルロンド・ダイジェスト』からは、いっさいの取材を断らない代わりに、スポンサードを受けている。そういうわけにはいかないよ」 「スポンサー契約など無くても、わたしたちは全国大会を戦えます。また、契約があるからといって、勝ち抜けるとは限りません。 セカンドリーグの全国大会選手でも、そんな契約をしているのはほんの一握りでしょう。大多数の選手と同様の条件でも、わたしたちは十分に戦えるはずです」 ……何か話が大事になってきた。 雪華の言うスポンサー契約は、神姫プレイヤーが特定の企業や団体と契約を結んで、バトルロンドの活動資金や武装などを出してもらうことだ。 そのかわりに、その神姫はメーカーが提供する武装やパーツを使用したり、ボディなどにメーカーロゴをペイントしたりして、広告塔としての役割を果たす。 通称「リアルリーグ」と呼ばれるファーストリーグは、そうしたスポンサー契約も盛んに行われている。 セカンドリーグではあまりそういう話はない。セカンドリーグ上位の有名神姫プレイヤーくらいだろうか。 雪華は『バトルロンド・ダイジェスト』と契約を結んでいるらしい。 バトルロンド専門誌からスポンサー契約を受けているとは、どれだけ実力があるということなのだろうか。 それにしても、俺たちとの対戦がそこまで重要か? スポンサー契約がなくなれば、資金面で厳しくなる。 そうした契約自体が少ないセカンドリーグとはいえ、全国を勝ち抜くにあたって、資金がないよりはあった方が有利であるはずだ。 それを雪華は、俺たちとの対戦で捨ててもいいと思っている。 いったい、何を考えているのだろう。 「だったら、そんな腰抜けほっといて、俺たちの挑戦を受ければいいじゃねーか。俺たちは取材、大歓迎だぜ?」 その声に、ギャラリーも沸く。 口を挟んだのは、『玉虫色のエスパディア』のマスターだった。 どうも、三強はクイーンに対戦を申し入れて、ことごとく断られたようだ。 にやにやとした笑みを張り付けた顔に、雪華は冷たい一瞥を放った。 「……あなた方との対戦は、意味がありません」 「な……なんだと……!?」 「わざわざここまで足を運んできた意味がないのです。 わたしたちがハイスピードバニーやエトランゼと対戦を望むのは、彼女たちが唯一無二の戦い方をしているからです。 わたしが東東京地区大会のインタビューで挙げた武装神姫は、いずれもそういう戦いを展開し、大会にはエントリーしない神姫ばかりです。 わたしはそのような神姫との戦いを望んでいます。 ただ強いだけの神姫なら、ここまで来る必要がないのです」 高村は、雪華の言葉に、肩をすくめて頷いていた。 なるほど。確かに、ティアの戦い方は唯一無二だろう。雪華はそこに価値を感じているということか。 三強は確かに強いが、大会にでてくる神姫に比べると見劣りがする。戦い方も、標準の域を出ない、というところか。 見れば、玉虫色のマスターは、口をぱくぱくさせながら、怒りの矛先を向ける方向を失っているようだった。 神姫にあそこまで言われたなら、もっと噛みついてきてもいいはずなのだが……何か思うところがあるのだろうか。 そんなことを考えていると、左胸のあたりから声がした。 「マスター……」 「どうした、ティア」 「雪華さんとの対戦、受けてください……お願いします」 突然何を言い出すんだ。 俺は驚いて、ティアを見下ろす。 雪華の様子を見ていたティアは、不意に俺の方へ視線を向ける。 その顔には必死さが滲んでいた。 次へ> トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2006.html
第三話 「バトルフィールド・砂漠地帯。おーなーノミナサマハ神姫ヲすたんばいシテクダサイ」 ジャッジAIが無機質な声で会場の準備が整ったことを伝える。 神姫同士の戦い、すなわちバトルロンドは大きく分けてバーチャルバトルとリアルバトルの二種類がある。 バーチャルバトルは文字通り「仮想現実空間でのバトル」で、常に最高の状態で戦えるのが特徴だ。 何より神姫が壊れることもない。ただし、バトル中に味わった恐怖をトラウマとしてそのまま引きずることもあるので一概に安全とは言えないが、これの普及も武装神姫がここまで流行った理由の一つである。 逆にリアルバトルではふつうに実弾が飛び交い、神姫も実際に損傷する。 しかし、こっちはこっちでバーチャルにはないスリルが楽しめる。 さらに、バトルの公正さを保つために個々の神姫にはランクというものが与えられている。 これは一定のポイントをためるとランクが上がるというモノで、勝てば成績に応じてポイントが与えられ、負ければその分相手に奪われる。さらに、格上の相手に勝てばたくさんポイントがもらえ、逆に格下に負けてしまった場合、最悪降格もあり得る。早い話が弱肉強食だ。 全部で五段階あり、上からプラチナ>ゴールド>シルバー>カッパー>ブロンズの順に低くなっていき、上に行けば行くほどリアルバトルが数を増してくる。 ちなみに優一のアカツキはシルバーランクの中堅どころをキープしている。 そしてスペックが異常な違法パーツや反則行為は厳しく規制するレギュレーションもそれに一役買っている。 しかし、中にはルールギリギリのヒールファイターもいるものである。 「アカツキ、危なくなったらギブアップもして良いぞ」 「「最後まで諦めるな」って教えたのはマスターでしょう?絶対勝ってきますよ」 「そう来なくっちゃな。それでこそ俺の神姫だ」 クレイドルのハッチが閉じられ、ロードが始まる。その間に優一は可能な限り情報を集めにかかった。 「障害物と呼べるのは岩場とサボテンくらい・・・、サバが地面に刺さっているのはギャグとして受け取っておこう。 とれるレンジは自ずと離れざるを得ないからアカツキにとっては有利だな」 そうこうしているうちに互いの神姫がバーチャル空間に転送されてきた。 アカツキはアーンヴァルのデフォルトである白い翼のようなフライトユニット・リアウィングAAU7を背中に、 左腕にはガードシールド、頭にはヘッドセンサー・アネーロ改を装備している。 これは天使コマンド型・ウェルクストラのデータをフィートバックした最新鋭モデルだ。 いや、アカツキ自身もアーンヴァルの上位機種である「アーンヴァルトランシェ2」と呼ばれるモデルだ。 当然性能も並のアーンヴァルのより少しは上である。 武装は右手に標準的なアサルトライフルを持ち、M4ライトセーバーを両腰のホルスターに収めている。 予備の武装であるLC3レーザーライフルと2種類のカロッテ、蓬莱壱式を改造したロケットランチャーとMVランスは まとめてサイドボードに格納されている。 対するジャンヌは漆黒の鎧に身を包んでいるが、装備している武器は火器ばかりだ。 あれでは完全にサイフォスの特徴を完全に殺してしまっている。 自分ならバランスのとれたヴァッフェバニーのバックパックにランスと二本の剣に加えて補助でサブマシンガンか、ハンドガンを1,2丁持たせる。 「バトルロンド、セットアップ。レディ・・・ゴー!!」 「さあジャンヌ、あの天使型の子を血祭りにあげておやり!!」 「イエス・マスター!」 試合開始のブザーが鳴ったと同時にジャンヌが全身の砲を一斉にぶっ放してきた。 「あの神姫、スポーツマンシップってモノが無いんですか?」 「神姫に罪は無い。それと避けないと木っ端微塵だぞ!」 「わかってますよもう!」 アカツキはアウターバーナーを噴かして急上昇し、辛うじて回避する。こうなると戦術は一つ。 「アカツキ、回避に専念しろ。レーザーライフルを使う」 「いきなりそれですか。」 「相手のウィークポイントに一撃当てたら接近戦だ。とはいえ、相手はサイフォスだから簡単には行かないかな」 「簡単に進むことほどショボイことはありませんて。」 「よく言った!」 優一はサイドボードの武装とメインボードの武装の入れ替えの準備を始めた。アカツキの右手にあったアサルトライフルがポリゴンの塊となって消滅し、代わりにアカツキの身長ほどはあろうかというLC3レーザーライフルが転送された。 「そんなモノ、出してきたところでムダですわ!ジャンヌ!!」 「イエス・マスター!」 ジャンヌは再び全身の火器を撃ってくる。今度は一撃必殺を狙った収束ではなく、けん制目的の拡散発射だ。 しかし、アカツキはこれらを紙一重でかわして行く。 「エネルギー充電完了、システムオールグリーン、ターゲットロックオン!いっけえええぇぇぇぇぇ!!」 腰だめに構えたレーザーライフルの砲口からプラズマ球が発生し、一拍おいて閃光が迸る。 それは真っ直ぐジャンヌへと向かい、彼女の体を包み込んでゆく。 そして照射が終わった頃にはジャンヌがいた場所は巨大なクレーターができあがっていた。 「やった?撃った?勝った?」 「お前はシーザーか。・・・?!いかん!!まだだ!!」 「え・・・きゃあ!!」 勝利を確信しかけたその次の瞬間、グレネードの一撃がリアウィングに着弾し、根元から折れてしまった。 その結果、揚力を失ったアカツキは落下するも、脚部のブースターを使って辛うじて着陸する。 「装備を・・・。マスターから授かった私の装備を・・・、許しませんわ!!」 「ぐふぅ!!」 ジャンヌのボディーブローが脇腹にクリーンヒットし、思わず膝を着くアカツキ。 そこへさらに彼女の顔に蹴りが入り、地面へと倒れ込んでしまう。 「誇り高き鶴畑の神姫たるこの私の装備だけでなく、あまつさえ五体の一つを奪うなど、 身の程知らずも甚だしい!その行為、万死に値しますわ!!」 そう言うとジャンヌはさっきのお返しだと言わんばかりにアカツキを足蹴にし始めた。 火器に誘爆したのか、確かに装甲や火器ははほとんど残っておらず、左前腕が無くなっている。 「そうよジャンヌ、この鶴畑和美に逆らった愚か者はどうなるか、観客に教えて差し上げなさい!」 「イエス・マスター!!」 「うっ、あぐっ、くはぁ!」 和美の指示を受けたジャンヌはアカツキをより一層痛めつける。 しかし、残された力を振り絞ってアカツキはジャンヌの脚をつかんだ。 「まだ抵抗する力が残っていましたの?ジャンヌ、トドメを」 「イエス・マスター!」 「まだ、終わっちゃいない!!」 一本残されたナイフをのど元に突き立てようとしたジャンヌめがけてバイザーに隠されたバルカン砲を放った。 人間で言えば豆鉄砲に当たるので、ダメージには至らないが、怯ませるのには十分だった。 「マスター、今です!MVランスを!!」 「いよっしゃ、受け取れ!!」 アカツキはリアウィングをパージし、転送されてきたMVランスを受け取ると、 少し距離を空けてからジャンヌめがけて突撃した。 「いっけえええええぇぇぇぇ!!」 「悪あがきですわね。ジャンヌ!!」 「イエス・マスター!!!」 ジャンヌも転送されてきたトライデントを手に取ると、アカツキに正面からぶつかっていった。 お互いの位置が入れ替わった。 アカツキは右腕を喪失したが、かわりにジャンヌの胸には深々とMVランスが突き刺さっていた。 「ばとるおーばー。Winner、アカツキ」 「マスター!私、勝ちましたよ!!」 「よくやったなぁアカツキ!!さすがだ!!」 クレイドルから出てきたアカツキは感極まって優一に飛びついた。 ところが、反対側から怒声が聞こえてきた。 「全く!!後一歩だったと言うのに、なんたる失態ですの!!ジャンヌ、それとそこのあなた!!今日の所は許してあげますが、次はこうも行きませんわよ!!!」 そう言うと和美は床を打ち鳴らさんばかりにがに股でその場を後にした。 「何ででしょう、一種の哀れみの感情が・・・」 「まあ、良い薬になっただろう。勝負の世界は勝ち続けるよりもある程度は負けを重ねた方が経験になるからな。それはそうとお疲れさんアカツキ。ちょうど昼時だし、うちに帰って焼きそばでも食うか」 「はい、それじゃあ具は豚コマとニンジンにタマネギ、味付けはソースも良いですけど、偶には酢醤油も悪くないですね」 「酢醤油とは・・・、意外と通だな」 「そんなこと無いですよもう!」 二人の絆は家族とも友人とも、恋人のそれともまた違ったモノがあった。 ~The END~ とっぷに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2550.html
第2部 「ミッドナイトブルー」 第11話 「night-11」 2ヵ月後 西暦2041年 7月21日 15:00 『大阪府 大阪市 鶴見緑地センター店』 お昼の3時のチャイムが公園内に響く。 園内の噴水広場の軽食コーナー、そこでは多種多様な神姫とオーナーたちがお菓子を食べて雑談をしていた。 オーナー1「おい、知ってるか?昨日の夕方、出たらしいぜ」 オーナー2「出たって何が?」 天使型「例の都市伝説ですね」 剣士型「超音速の死神か・・・」 悪魔型「ええーーーほ、本当?」 オーナー3「ついにこの神姫センターにも、来たか」 種型「なんでも物凄い数の神姫が撃破されたらしい」 花型「ひゃーーー恐ろしい恐ろしい」 オーナー5「超音速の死神、あれって実在するのか?よくあるゴーストファイターだろ?」 雑談に花を咲かせるオーナーたち。 軽食コーナーの端でパラソルの下で老人と将棋を打っている黒い軍服を着た将校型神姫がぼつりとつぶやく。 ナターリャ「やれやれ、またなんとかの死神か」 アオイ「死神といえば、あいつを思い出しますねーナターリャ将軍」 ナターリャの将棋を観戦するアオイとツクヨミ。 ナターリャ「そいつの話はするな」 ツクヨミ「ちょっとトラウマって奴ですか?」 茶化すツクヨミ。 軽食コーナーの横の桟橋では航空母艦型のツラギが停泊し甲板を開放し中央では武装をはずして水着姿になった神姫たちがホースを掴んでキャッキャと水浴びして遊んでいる。 ツラギ「あーーあーー、最近なんか張り合いのある奴がいなくてつまんないですねーマスター」 でっぷりと太った金川がカメラを片手に水着姿の神姫を写真に収めて満足している。 金川「いやいやーこういう可愛い神姫たちのキャッキャウフフを愛でるのもいいもんだよ」 ツラギ「なにも私の甲板の上でやらなくても・・・」 金川「オマエの上だったらいろいろと遊び道具とかあるし、便利だろ!艦内にはシャワーもあるし!!」 ツラギ「そういうのに、空母型使わないでくださいよー」 パチン ナターリャ「チェックメイト・・・じゃなかった王手!」 ナターリャが将棋を心地よく打つ。 ナターリャ「うむ!将棋も悪くないな!!面白い!」 ナターリャの対戦相手でありオーナーである伊藤は満足そうなナターリャを見て微笑む。 伊藤「それはよかったですね。ナターリャー」 湖に灰色の数十隻の戦艦型神姫が着水する。 野木「やあ、みんなお久しぶり」 ラフな半そでのTシャツを着た野木が軽食コーナーに顔を出す。 金川「おおー野木ちゃんお久しぶりー」 立花「ノギッチ!キター」 衛山「おひさ」 野木「ナターリャ将軍、おひさ」 ナターリャ「うむ」 ナターリャは手をひらひらと振る。 野木「調子はどうだい?」 ナターリャ「まあまあ、かな?最近はとんと暇している」 アオイ「張り合いのある神姫がいないんだとよ」 野木「まあ、SSS級の将軍に合うようないい娘はなかなかそういないからね」 湖に着水した数十体の戦艦型神姫の灰色の巨体がまぶしく光る。 ナターリャ「灰色艦隊は、すべて復活したようだな」 野木「まあな、マキシマがバラバラになっていて完全に治すのに1ヶ月以上かかった」 マキシマがやれやれと肩をすくめる。 マキシマ「今度、やるときは指揮系統をしっかりとしてくれよ」 ナターリャ「今度か・・・」 ナターリャは遠い目をして湖を見る。 ナターリャ「そういえば、夜帝はどうしている?」 野木「夜帝か、あいつは心斎橋の神姫センターでちょくちょく見かけているって話だ」 2ヶ月前に行われた夜帝との激戦はネットにも動画が公開され、多くの話題を呼んだ。 今まで夜帝の存在はあまり公には知られておらず、都市伝説化していたが二日間にわたる連戦で、夜帝がたった1機で戦艦型神姫を9隻、航空母艦型1隻、艦載機10数機という完全武装の2個艦隊を撃滅したことは多くの神姫たちを震撼させた。 夜帝はナターリャの手によって敗れたが、帰ってその名声を轟かせたことになる。 ナターリャ「そうか・・・またあいつとチェスを、いや・・・神姫バトルをやってみたいな」 ナターリャは感慨深くそういうとパチンと将棋を打つ。 アオイ「神姫バトルって将軍は、基本他人のふんどしで戦うだけでしょwwww」 ナターリャ「・・・」 青筋を立ててナターリャはパチンと指を鳴らす。 アオイ「ちょ」 湖に停泊中の灰色艦隊がアオイに向かって砲塔を向ける。 マキシマ「艦砲射撃ッ!!撃ち方ァーー用意!!」 ヴィクトリア「アオイさんはいつも一言余計なんですよ・・・・」 ナターリャ「これが私のバトルスタイルだ。文句があるならいつもで受け付けるが?」 野木「将軍には誰も勝てないな」 ナターリャ「SSS級でも用意したまえ」 サソリ型「あのお・・・・」 おずおずと一体のサソリ型神姫がナターリャに声をかける。 サソリ型「この間から夕方の5時に超音速の死神って二つ名のSSS級ランカー神姫がこの神姫センターに現れて暴れまくっているのです・・・た、助けてください!ナターリャ将軍!」 野木「はあ?超音速の死神ってあの超音速ステルス戦闘機型MMS「クリスティ」のことかい!?」 野木は目を丸くしてサソリ型の声に耳を傾ける。 サソリ型「はあ、なんでも心斎橋の神姫センターにいたらしんですが、夜帝とテリトリーがかぶるからってこっちに流れてきて・・・ううう・・・もうすでに300機くらいの神姫が、仲間がやられているんですよ・・・」 野木はナターリャに声をかける。 野木「将軍!出番だぜ」 アオイ「おいおい、超音速の死神って・・・確か音速を超える超高速戦闘型の化け物じゃねえか!!」 ツクヨミ「うは、また化け物神姫かよ」 ツクヨミとアオイが唸る。 ナターリャ「ほほう、化け物退治というわけか」 ナターリャはすっと立ち上がり桟橋に停泊している航空母艦型MMSのツラギに声をかける。 ナターリャ「ツラギ!張り合いのある奴が出たぞ!仕留めに行くぞ!!今度は超音速の死神だ!!」 ツラギがきょとんとした顔でナターリャの顔を見る。 ツラギ「ちょ、超音速の死神!!?クリスティじゃないですか!!SSS級の化け物ォ!!」 桟橋にいた灰色艦隊の戦艦型神姫もざわめき出す。 ノザッパ「ひえええええええ!!音よりも速いあのスピード狂ですか!?」 マキシマ「へへっへ、上等じゃねえか」 ヴィクトリア「化け物神姫ですね」 そのとき、神姫センターの上空を真っ黒な槍のようなスマートなフォルムの航空神姫が空を切り裂くように飛び去った。 □超音速ステルス戦闘機型MMS 「クリスティ」 SSSクラス 二つ名「超音速の死神」 姿が見えて、数秒後にショックウェーブが軽食コーナーに巻き起こり、日傘のパラソルが衝撃波で吹き飛び、音が後から付いてくる。 ドゴゴオオオーーーン!!! ナターリャはにやりと笑う。となりにいたサソリ型が悲鳴を上げる。 サソリ型「で、出たァ!!!」 ナターリャ「ふん、あれが超音速の死神か、なるほど化け物神姫め」 アオイ「ひええええ!!お、音が後から来たぞ!」 ツラギ「レーダーに反応無し!!ステルス機だ!!」 ノザッパ「は、速い!!」 ナターリャ「ふはっはっはは!!この間のバトルはまだ続いているぞ!!あのランカー神姫は夜帝のシュヴァルに心斎橋神姫センターを追い出されてここに流れ着いたランカーだ!!俺たちが招いた因果だッ!!!!!!盛大に歓迎してやろうではないか!」 ナターリャは右手を超音速の死神に向ける。 ナターリャ「バトルロンドは戦いの旋律 終わらない戦いの旋律 さあ、私たちも旋律を奏でようではないか・・・」 西暦2041年 その世界ではロボットが日常的に存在し、さまざまな場面で活躍していた。 神姫、それは全高15センチほどのフィギュアロボットである。 :心と感情:を持ち、最も人々の近くにいる存在。 その神姫に人々は、思い思いの武器、装甲を装備させて、戦わせた。 名誉のために強さの証明のために・・・・・・・・・ 名も無き数多くの武装神姫たちの戦い 戦って戦い尽くした先には何があるのか バトルロンドは戦いの旋律 終わらない戦いの旋律 戦いの歴史は繰り返す いにしえの戦士のように 鉄と硝煙にまみれた戦場で 伊達衣装に身を包んだ神の姫たちの戦いが始まる。 第2部 「ミッドナイトブルー」 終わり
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/184.html
先頭ページ 次へ? プログラムの間隙を突け ルールの穴をかいくぐれ 敵はシステムなり CROSS LO[A=R]D 第一話「修正」 背後に相手が出現するのを、そのマオチャオはまったく気付かなかった。 いや、センサーの反応が追いつかなかったのだ。 真っ赤に赤熱するサイズ・オブ・ザ・グリムリーパーが、猫型MMSのそっ首を一振りのもとに掻き切った。 泣き別れになったマオチャオの首と体は、ポリゴンの塊と化して消滅した。 『試合終了。Winner、クエンティン』 トレードマークの眼鏡を中指でくい、と戻し、ストラーフ「クエンティン」は観客へウィンク。 アクセス解除。 「ねねねね、あと三戦もすればファースト入りよ、お姉さま! どーよアタシの実力! 」 帰り支度をしながら、クエンティンはへへん、と胸を張った。 「ファースト入りはそんなに甘くないわよ」 クエンティンのオーナー、夢卯理音はパーツを片付けつつ、諭すように言う。 「こうしている間にも他の神姫のポイントは変動して、ランクは変わるのよ。単純に三戦勝てばいいってわけじゃないわ」 「じゃあもう一戦しましょうよ!」 「今日はもうここにあなたよりランクの高い神姫はいないわ。帰りましょ」 「ぷー」 ふくれているクエンティンを肩に乗せ、理音は立ち上がった。 「それに……」 対戦ブースを振り返り、観戦用大型立体モニターを見上げる。 そこにはお互いに瞬間移動しながら戦うアーンヴァルとヴァッフェバニーが映し出されている。 「流行りすぎてる。もうあれは使えないわね」 トランクを持って、理音はセカンドリーグ・センターを後にする。 ◆ ◆ ◆ 数日後。 パソコンの画面にはフォトショップのウインドウが開かれており、そこにはゲーム画面らしき作りかけのイラストが映っていた。 理音はグラデーション作業を途中で止め、メガネをずらして眉間を押さえる。 「もう二徹よー。そろそろ休んだら?」 後ろのベッドの上で寝転びながら、クエンティンが背伸びをした。また昔のアルミニウム粉末で受けた攻撃の記憶がボディをちりちりさせる。実際にリアルのボディで受けたわけではないダメージ。 これも一種のスティグマータなのではないかと、クエンティンは本で読んだことを思い出した。 「まだ締め切りまでかなり時間あるんでしょ? いまからそんな修羅場モードなやり方だと、死んじゃうわよ」 「ふぅ……そうね」 理音は保存してフォトショップを終了。 「死んじゃったらクエンティンを可愛がることができないものね」 「もう、お姉さまったら」 照れくさそうに手を振るクエンティン。 理音はふと気がついて、ネットブラウザを開き武装神姫の公式ページを開く。 ホットニュースの欄に、バーチャルバトルシステムメンテナンスのお知らせがあった。 内容はこう書かれていた。 明日朝六時より八時の間、プログラム修正のためメンテナンスが行われます。 改正内容は次のとおりです。 ・アクセスポッド内にコアとMMS素体の両方が揃っていないと本体認識 されないようになります。 ・サイドボードにコアを含むMMS素体を配置しても認識されなくなります。 具体的な言及は無いが、これは明らかに理音たちが始め、いつしかネット経由で構造が解析され、特殊装備を使うオーナー達がこぞって使い出し、いまや一つの流行になりつつある例のダミーコアとサイドボードを利用した瞬間移動、を禁じる修正であった。 「やっぱりなったか。お仕事早いわね」 「えっ、なになに?」 クエンティンが肩にぴょい、と飛び乗り、画面を覗く。 「……うそ~! もうあの瞬間移動使えないの!?」 「セカンド以下のバーチャルバトルに流行りまくってバランス崩れかけてたものね」 「これからどーするのよ?」 「別に? 私たちにあるのはあの瞬間移動だけじゃないでしょう」 「そうだけど……」 「ま、なんとかするわよ。それが私達のやり方だもの」 自慢の長い黒髪をかきわけて、理音は言った。 あわく心地よい香りがクエンティンの嗅覚センサーを絶妙に刺激する。一番好きなにおい。 「それでこそアタシのお姉さまだわ」 理音の首筋にしなだれかかる。 どんな逆境も地獄も、お姉さまと一緒なら乗り越えられるのだ。 ◆ ◆ ◆ 彼女は逃げていた。 かたまりの大きなぼたん雪が降る夜半。 すでに道路には数センチの積雪があり、人間にはどうということがない厚さでも、身長およそ十五センチの彼女には逃走を邪魔する障害でしかなかった。 後ろを見つつ、息を切らせて雪を踏み走る。呼吸をすることのない彼女が「息を切らせる」という不随意運動をするのは、気温の冷却が間に合わないほど、彼女のボディが熱を上げているからだった。 試験用のこのボディでは、キャパシティの限界を大きく超えている。全てを無理やり圧縮して持ってきたが、そろそろ限界だ。 背筋に悪寒が我が物顔で駆け抜ける。それほどの脅威がすぐ後ろに迫っているのを、彼女は知った。 「くっ」 振り向き座間に手をかざす。 右腕部下の空間にらせん状に何かが現れる。何も無いところから何かが実体化する。 ここはバーチャル空間ではない。 らせん状のものが顕現を終える。それは長銃身のハンドカノン。 ハルバード。 脅威に向けて、弾体を射出。 シパッ、という加速音。火薬式ではない。レールガン。雪に混じって白く輝く弾丸の軌跡が空間を横切る。 粒子ビームで無いことに彼女は驚愕した。 人間距離で数メートルほど飛んだ後、突然パキン、と、何かに弾かれる。そこに脅威の正体が居るのだが、このあたりには外灯が無く、輪郭がつかめない。 『無駄だ、お前の素体ではケほどの運動エネルギーも発生されない。おとなしく戻されろ。お前は必要だ』 脅威がしゃべる。音も立てずに急接近。 「い、や、だ」 彼女はカノンを再びらせんに戻して、消す。 代わりに左腕にらせんが発生し、鋭く頑丈そうなナックルが現れる。 ガントレット。 太いシャフトで繋がれた短距離ロケットパンチのようなそれで、彼女は眼前に迫った脅威を殴り飛ばした。 本来ならば粒子の塊が出るはずなのだが。演算能力も容量も足りない。 脅威がまたたくまに遠ざかる。ひとまず安全は確保された。 だが、彼女はもう動けなかった。 オーバーヒートが過ぎる。神経回路が失神する。 彼女は道路の、積雪の上に崩れ落ちた。 すぐにぼたん雪が彼女の上に積もり、彼女を隠した。 しんしんと降る雪の、本当にかすかな音だけが、辺りを支配する。 夜は何事も無かったかのように更けてゆく。 つづく 先頭ページ 次へ?
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2307.html
アスカ・シンカロン04 ~審寡~ 「おかしいぞ」 本屋を出た帰り道に立ち寄ったのだ。 繁華街の一角だった事も確か。 なのに。 「無い」 いつも通る道の何処にも、件の骨董屋は見つからない。 「無い訳無いだろう!?」 昨日の帰り道は、特に意識しては居なかった。 それは逆に言えば、何時もと同じ道を通ったからだ。 「なのに、なんで何処にも無いんだよ!?」 繁華街の入り口まで戻り、神姫センターを通って、昨日立ち寄った本屋へと辿り着く。 そして、その帰り道に古びた建物を見つけた筈だった。 「左の方だったんだ、間違いねぇ」 「北斗ちゃん、そっち右なんだよ」 「……」 「……」 「い…、いいんだよ。『こっち』側なのは確実だ!!」 本屋から繁華街の入り口まで戻る道を辿る。 右側と、念の為に反対側も確認しながら、ゆっくりと歩くが、該当する建物に巡り合わぬ内に、繁華街の入り口まで戻ってしまった。 「無いんだよ」 「んな訳無ぇ」 肩の上に腹這いになりながら寛ぐ明日香に、北斗は余裕の無い声で返す。 「なんで無いんだ。この通りなのは絶対に確実だ!!」 「あのさぁ、北斗ちゃん」 「んだよ」 「神姫を取り扱っているお店なら、神姫センターで聞けば分かるんじゃない?」 「……」 ぽん。と一つ手を打って、北斗は神姫センターに向かって走り出した。 「―――無いですねぇ」 大型神姫センターの店長である女性が、パソコンで検索しながらそう応える。 「んな訳無ぇだろ!!」 「でも、この近くで神姫を取り扱っているのは、ココとパソコンショップ、それにおもちゃ屋の3店だけです」 パソコンショップは場所も違うし、独立した大型店舗でどう間違っても骨董屋に間違えるわけが無い。 おもちゃ屋は、北斗も時折ゲームソフトなどを買いに行く行きつけの店だ。そこでもない事は確実だった。 「小さな店でよ、骨董屋みたいな雰囲気なんだ。このすぐ近くの筈なんだよ」 「そう言われましても……」 流石に店長も困った顔をする。 「あの……」 「はい?」 北斗の肩の上から店長に話しかける明日香。 「個人経営の小さな店だと、ココに登録されていない事ってありますか?」 「オーナー登録は必須だし、出荷や、ユーザー管理の観点からも、本社が把握していない小売店なんか存在しないわね」 「そうですか」 とりあえず礼を言って、二人はカウンターを離れる。 しかし、これで八方手詰まり。 こうなって来ると、昨日の記憶を疑う方が正しい気もするが、それが記憶違いでない事は今もポケットの中にある、あの墨で書かれた手書きの説明書が証明している。 「それ以外の可能性ね~」 「北斗ちゃん、携帯貸してほしいんだよ」 「…? どうするんだよ」 「骨董屋さんの検索をするんだよ」 テーブルの上に携帯と明日香を置いてやると、明日香は器用に掌でボタンを押し込みながらその操作を始めた。 「どうだ?」 「う~ん、該当件数3件なんだよ。……でも全部遠いね」 「違うか」 一番近い店でも徒歩で30分以上掛かる。 候補に上げる事は出来そうに無かった。 「…狐にでも化かされたかな?」 冗談めかしてそう言った後、背もたれに寄りかかり、仰け反って転地逆の真後ろを見る北斗。 さかさまの視界に、蝙蝠型ウェスペリオーのCMが流れていた。 「…何やってるのよ、北斗」 「んあ? 夜宵?」 本来なら天井からぶら下がっているのだろうその神姫のCMとの間に、割り込んでくる見慣れた少女。 「…んあ、じゃないわよ」 肩の上に白いストラーフを載せた夜宵が、北斗のすぐ後ろに立っていた。 「…って北斗、神姫買ったんだ?」 テーブルの上で正座する明日香を見つけ、夜宵が視線を動かす。 「あ、ああ、そうだ!! 夜宵―――」 「―――マスター、自己紹介ぐらい自分で出来ます」 「え?」 明日香の事を説明しようとした北斗を遮り、明日香自身が立ち上がって夜宵の前に進み出る。 「始めまして。……私、マスターの武装神姫になりました、明日香です」 「……っ!!」 その名に、弾かれた様に硬直する夜宵。 「……お、おい明日香……」 「……………………北斗、あんた趣味悪いわよ……」 一瞬、気持ちの悪い物でも見るような目で明日香を見て、夜宵は一歩後ずさる。 「……姉さんはもう居ないって、言ったでしょ? それなのにっ!!」 「大丈夫ですカ、マスター」 夜宵の肩の上でその頬に手を置きながら、彼女の神姫、パールが主を気遣った。 「……帰る……」 「では、これで失礼させていただきまス。北斗。……それから、明日香さン……」 北斗を、そして明日香に視線を這わせてから、パールが頭を下げた。 「……北斗。……姉さんは、もう死んじゃったんだからね……。……もう、何処にも居ないんだよ……」 そう言い残し、夜宵は踵を返して小走りに走り去った。 「明日香、お前どういうつもりで!?」 「えっと、夜宵ちゃんには、しばらくナイショしようと思うんだよ……」 「…なんでだよ」 何か考えがあるらしいと悟り、北斗は声を落した。 「ほら、あのさ。少なくとも私が何で神姫になってるのか。その理由を説明できないと、信じて貰えないかもしれないんだよ」 「夜宵なら大丈夫だって!!」 「……でも、ずっとこのままじゃないかもしれないし……。夜宵ちゃんには、心配かけたくないんだよ……」 「……ぁ」 確かにその通りだった。 弥涼明日香は生き返った訳ではない。 例えば、神姫の素体に明日香の魂みたいなものが憑依したのだとしても、ずっとこのままという保証も無い。 或いは、次の瞬間に明日香の魂が消えて、飛鳥がただの神姫に戻る可能性だってあるのだ。 「だから、少なくとも。私がどうしてこうなったのかが分かるまでは、他の人には秘密にして欲しいんだよ」 「……ああ、分かった」 頷くしかない。 もしも、明日香のこの状態が長く続かないのだとしたら。 心の整理をつけた夜宵に、もう一度別離を味わわせる事も無いのかもしれない。 「……でもよ、そのまま明日香って名乗ったのは不味くないか?」 「だって北斗ちゃんには、咄嗟に別の名前で呼ぶような演技は無理なんだよ」 「……はい、出来ません。演技力ゼロです。そういう機転も利きません。ゴメンなさいでしたぁ」 「うん、分かれば宜し~んだよ」 にへへ、と笑うその顔が、生前のものと同じ事に、北斗の胸が少しだけ痛んだ。 -